実録?百物語
8、はじめての金縛り
text by オオヤギみき(TOKYO GOONIEZ)
19才くらい?の東京に出て来たばっかの頃。中野南台の5.5畳しかない小さなワンルームで暮らしていたときの話。連日クラブ通いで、朝方帰ってきて、「いいとも」みながら寝る、みたいな生活パターンだったオレは、その日も「ごきげんよう」が終わったくらいにテレビを消して寝た。フトンはマットレスもないセンベエブトンだけど、カーテンのスキマから昼間の太陽が差し込む中、街が機能してる音を聞きながら眠るのは、徹夜明けの疲れも伴ってるせいか、夜寝るのよりも格段にキモチイイ。
ウトウトしだして、意識が朦朧としてきた頃、電話が鳴った。何コールかしてるケド、もう寝てるし「ウゼえなあ〜」と思って無視してた。この時間、仕事や学校の昼休憩で、用事もナイのにかけて来るヤツが多いのだ。
「ガチャ」と、受話器を上げる音が聞こえた。
同時に「ザザー」って、あのテレビの砂嵐の音あるじゃん? あの音が、電話機の手ぶらボタンを通したように、少しニゴって鳴っている。
アレ? 誰もいないのになんで受話器あがったんだ? 眠いのが優先してたから、しばらくたってからこの疑問に気付いた。
と、同時に金縛りにかかってしまった。
「うお! コレが金縛りか!」
初めての金縛りにチョット感動。おー、マジでカラダ動かねえじゃーんとか思って意外と楽しい。あ、でも目は開くんだ。首は動かないケド、目玉は動くから、部屋の3分の1くらいは見渡せる。視界はボヤけてなんだか夢の中の世界みたい。
おおー、スゲエスゲエ。とか思いながら、目玉を動かして自分のカラダを見ると、
「!!!」
シワだらけでやせ細った茶色い腕がオレのカラダを押さえてるじゃないか!
動かない視界をギリギリまで後ろにやると、首の後ろあたりにカゲが見える。アタマだ。顔や髪の毛までは見えないケド、黒い影がハッキリと見える。後ろから抱きかかえるカンジで、胸のあたりをギュっと押さえてやがる。そのシルエットから、それが「老婆」であることがなんとなくわかった。叫ぼうにも声が出ない。
しかし、こんなキゼツしそうなコワイ状況なのに、オレが一番始めに思ったの
が、「コノヤロ〜、ヒトがイイキモチで寝てるのに! ブっとばしてやる!」
昼間だったし、眠りを妨げられるのが一番キライなオレは、なぜかまったく怖くなくて、コイツに戦いを挑んだ。
とりあえず、頭突きをしようとアタマを後ろに振るんだけど、まったく動かない。蹴り飛ばそうと足に全身のチカラを入れても、足もまったく動こうとしない。ヒジで脇腹にイッパツ入れてやる、と思い、タイミングを見て、右腕を思いっきり振りかぶったと同時に、金縛りが解け、床を思いっきりブン殴ってしまった。
「イッテ〜...」
老婆の姿はすっかり消えている。意識は明朗に戻った。部屋を見回しても、どこも変わった様子はナイ。「な〜んだ。夢だったっぽい。」よくあるハッキリした夢だったんだなと思い、そのまま眠りについた。
夕方、イヤ、もうスッカリ暗くなってから目が覚めた。オレがゾっとしたのはその時だった。
電話機の受話器、はずれてんじゃん...