実録?百物語

20、虫の知らせ

text by 網屋徹

以前、仕事でつきあいのあったAMさんが、友人のH田さんから聞いた話。

H田さんの実家は山をたくさん持っている大地主で、部屋がたくさんあって家の中で迷ってしまうくらい大きな家に住んでいた。

ある日、彼が学校から帰ってきて仏壇のある12帖くらいの部屋を通りかかると、仏壇の前に男の子が座っていた。彼は、「おう、Mちゃん来てたのか」と、声を掛けたそうだ。Mちゃんは近くに住む親戚の子で、よく彼の家に来ていたらしい。

Mちゃんはその声に振り向いてうなづいたが、何かの影になっているらしくて、顔がはっきりとは見えなかった。でもまあ、うなづいたし姿形がすっかりMちゃんらしく見えたので、H田さんはあまり気にせず、服を着替えに行った。

さて、服を着替えて仏壇の部屋に戻ってみると、Mちゃんは帰ってしまったのか、もうそこにはいなかった。まあ、子供の気まぐれはよくあることだ。

その晩、Mちゃんの家から電話がかかってきた。「Mちゃんが、車にはねられて死んだ」と言う連絡だったそうだ。彼は慌ててMちゃんの家に向かった。Mちゃんの家で詳しく話を聞くうちに、鳥肌がビンビン立ってきたらしい。

と言うのも、Mちゃんがはねられたのは、ちょうどH田さんが仏壇の部屋でMちゃんの姿を見たころで、事故の衝撃でMちゃんの顔は、前も後ろも判らないくらいに失われていた、と聞かされたからだ。

H田さんは、どうりで顔がよく見えなかったんだな…と思ったらしい。

その年、H田さんの親戚だけで6件のお葬式を出した。田舎のことで、周りが親戚だらけ、という土地柄を考えても、1年で6人も死ぬのはおかしいと思う、とH田さんは言っていたそうだ。

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