実録?百物語
60、真相
text by 網屋徹
以前仕事でつきあいのあったAMさんから投稿でもらった話。多少手を入れたが、原文の雰囲気は十分に残っていると思う。rnrnrn高校生のとき、
僕の所属していたサッカー部にMという男がいた。Mと僕は別の中学に通っていたのだが、サッカーの練習試合や
公式戦で何回か顔を合わせたことがあり、僕はMのことをよく覚えていた。Mは小技の効くテクニシャンのフォ
ワードで、僕は中学時代ディフェンダーだったので、Mと僕とは直接ぶつかりあったことのある仲だったのだ。だ
から、高校でサッカー部に入部してMを見つけたとき、お互いに顔を見合わせて笑ったものだ。今度は味方じゃ
んって。rnrnそんなわけでMとは仲が良かったのだが、そのMはどうもモノの考え方が垢抜けているという
か、今から30年ほど前に、根性だの気合いだのでは試合に勝てるわけがないって言っていた。練習中に水を飲む
ななんて言うのはナンセンスだし、意味のないトレーニングではなく、目的を持った練習を決めた時間内に終わ
らせるという合理的な方法が正しい、と言い張ってた。rnrn根性論を振りかざす監督とは当然意見が合わ
ず、Mは高校2年生の春にサッカー部をやめて、地元のクラブチームに移籍してしまった。僕らは正直言ってMが
うらやましかったが、それでも学校のチームから抜け出る度胸もなく、根性を出して毎日練習を繰り返してい
た。rnrnそんな高校2年の夏休み。Mが伊豆の海でおぼれて亡くなった。rnrn夜に友人から電話があ
り、Mが亡くなったよ、と伝えられた。僕ははじめ冗談かと思って笑っていたのだが、どうも本当らしい。次の
夜、バイクを飛ばしてMの家に「確かめ」に行った。Mはちゃんと死んでいた。rnrn数人の仲間と海水浴に
行ったらしいのだが、いつの間にか姿が見えなくなって、みんなで探したら、海底に沈んでいたそうだ。海に
潜っていておぼれたらしい。僕はもうがっかりして、めそめそしてしまった。M、おまえ、死んだらしょうがない
じゃんって。rnrnその夜遅く、Mの家から帰るとき、庭先にMのバイクがひっそりと光ってたのを、今でも
昨日のことのように思い出す。高校2年の夏休みのことだった。rnrnそれから20年ほどが過ぎ、僕も30代後
半になった頃。Mが夢の中に出てきた。Mはまだ、と言うか、ずっと17歳のままで、当時と同じ声で、当時と同じ
ように僕と一緒に話をした。しばらくだね、元気だった?って。rnrn死んだやつに元気かもあったもんじゃ
ないが、Mは笑いながら、お前こそ元気そうだなって言った。何を話したか覚えてないが、とにかく楽しい時間を
過ごしたように覚えている。rnrnしばらくして、Mが僕に聞いてきた。ほかのみんなは元気かなって。rn
rn僕は友だちのことをいろいろと思い出し、キーパーのNはもう課長だとか、ハーフバックのSは地元で店開い
てるよとか、報告してた。rnrnあ、そうだ、Mと仲の良かったアイツ、Kがね、去年亡くなったんだ。交通
事故だったらしいんだけどね、何にもないところで側溝にはまって、打ち所が悪かったらしいよ、なんかクルマ
の中でひっそりと死んでたらしいんだ。新聞にも載ってたぜ。と、言ったら、Mは少しだけ笑って、うん、知って
るよ、と言った。え?と聞き返すと、Mは急に恐ろしい顔をしてこう言ったのだ。rnrnKはね、おれが連れて
きたんだよ。rnrnえ?と僕が聞き返すと、Mはこともなげに、rnrnKはおれを殺したから、今度はおれ
がKを殺してあげたんだ、と言った。rnrnどういうことだ?と聞き返したら、Mはこう言った。rnrnお
れとKは実は仲が悪かった。なのに、伊豆の海で遊んでいたとき、アイツと一緒だった。アイツはイタズラのつも
りだったろうが、高いところで海を見ていたおれを、うしろから突き飛ばしたんだ。おれはアセって、水をたく
さん飲み込み、それでオシャカだ。だからな、今度はおれが腕を引っ張って、溝に落としてやったのさ。Kの驚い
た顔ったらなかったぜ。rnrnMは押し殺したようにくすくす笑っていた。その時のMは、少なくとも僕の
知っているMではなかった。そんなこと初めて聞いたな、と驚く僕に、Mはこう言ったのだ。rnrnそうだろ?
誰にも言ってないし、誰にも言えなかったからな。でも、来てくれて嬉しいよ。rnrnMは手を差し出して
きた。握り返したMの手は氷のように冷たかった。その瞬間、目が覚めた。滝のように汗をかいていた。そうか、
でも、2人とも、もういないんだったな。と、考えた。rnrn真相はどうか解らないし、僕が夢の中で空想し
ただけかもしれない。でも、Mの押し殺したようなあの笑い声と、冷たい手は、忘れようにも忘れられないのであ
る。