実録?百物語
54、沼
text by 網屋徹
大学時代に経験した話。rnrn京都市の北方に、“出る”と噂の池がある。正しくは沼と言ったほうがいいかもしれない。一面に葦が生えて
おり、はまってしまうと抜け出ることも難しいらしい。池のほとりには、その昔は結核の隔離病棟に使われてい
た精神病院がある。病院から抜け出して行方不明になった患者が、その池で水死体として発見されることもある
らしい。rnrn初めてその池に行ったとき、なんというか、冷気のようなものを感じた。車の後部座席からお
りた途端、いきなりびびってしまったのを覚えている。rnrnさて。rn夜のドライブでその池まででかけ
た。男3人、女2人だったと思う。1人が、「池の周りを歩いて1周してみたくない?」と言い出した。私は正直な
とこ嫌だった。特に病院側の雰囲気ったら最悪な感じで、近寄りたくもなかったからだ。rnrnだが、私の意
見は取り上げられず、しかも私が先頭になって歩くことになった。病院とちょうど反対側の岸からスタートし
て、反時計回りに池を一周するという格好だ。最初のうちはよかった。スタート地点には民家もあったのでなん
となく心強かったし、女の子が怖がってきゃーきゃー言う雰囲気も悪くない。rnrnしかし、病院に近づくに
つれて、なんとはなしに気が重くなってきた。民家も遠ざかり、ちょっと怖くなりかけてきたのだが、先頭が水
を差すのもどうかと思ったので、誰かが「帰ろう」と言い出すのを心待ちにしていた。rnrn池の外周を4分
の1も来ただろうか。突然、これ以上は進めない、と思った。理由はない。なんとなくヤバイというか、先に進ん
ではいけないような気がした。「もうやめようかぁ」と言って引き上げた。それまでさんざん盛り上がっていた
みんなもなぜか納得してくれて、そのまま帰路についた。rnrnrnそれから2年ほど経って。テレビで怪奇
特集を見ていた。その手の番組に似合わず、秋だか冬に放送されてたような気がする。その番組の中で、件の池
が取り上げられていた。近所に住む人の話、タクシー運転手の談話が次々と紹介されていく。とどめは、霊能者
のなんとかさんが池の周りを一周するという企画。我々が通ったルートとまったく同じ道を、霊能者が先頭に
なって歩いていく。rnrn「向こうに悲しげな霊がいますね… 女の人の霊ですね… とても強
い念を持っています… あ、ここです」と言って、霊能者は立ち止まった。rnrnそこは、我々が先に
進むことをやめたあの場所だった。あれから2年が経っていたが、なぜかはっきりと覚えていた。霊能者曰く、病
気を苦にした女性が、その場所で自ら命を絶ったらしい。後に残す幼い子供のことが気掛かりだったとか。rn
rn記憶違いかも知れないし、ほんとのとこ、どうだったのかはわからない。でも、やっぱあの池ってそういう
とこなんだ、と思った。