実録?百物語
57、ユニゾン
text by 網屋徹
以前勤めてた会社での出来事。rnrn原稿を書く仕事がたまってたのだが、忙しさにかまけてなかなか取りかかれずにいた。比較的寛大だった上司
は『余裕のある時でいいから』なんて言ってくれてたのだが、そろそろやんなきゃと思い、ある金曜の晩に徹夜
で書き上げることにした。rnrn150平米くらいのオフィスに、深夜、一人きり。iTunesでお気に入りの曲
を聴きながら原稿書きに精を出してた。rnrnそのオフィス、新宿から出ているとある沿線の線路沿いにあっ
て、もっとも線路に近い側は電車の出す電磁波の影響でパソコンのモニタがまともに映らないらしい。そんなわ
けで、間取りの一番奥、線路に近いスペースは会議室として使われていた。rnrnrnふと、何かの気配が
した。会議室の方から。時計を見ると、午前2時を回っている。rnrn当時、私の席は入り口に近いところに
あって、会議室と席の間には2枚のパーティションが置かれていた。その2枚のパーティションの向こうに、何か
の気配がするのだ。rnrn深夜になると不思議な物音や気配がするが、なにも害はない、みたいな話は同僚か
ら聞いたことがあったし、なにより原稿を書き上げなくてはならない。気にはなるものの、気にしないことにし
て仕事を続けた。rnrnふと気が付くと、気配は会議室から移動して、パーティション1枚を隔てた場所にい
る。やだなぁ、こっちに来てるよ、もう1枚パーティションを越えたらすぐ近くまで来るじゃん…なんて思
いながら、キーボードを叩いてた。パソコンのスピーカーからは、当時一番のお気に入りだったaikoの、『be
master of life』が流れている。rnrn 誰が何を言おうと関係ない♪rn あたしは味方よ♪rn そんな
の当たり前の話よ♪rnrn次の瞬間、『オー イエー♪』と高らかに歌うaikoの声に、1オクターブ低い男声が
ユニゾンでハモった。気配はパーティションを越えて、私の机のすぐそばまで来ていた。rnrnその後の30
分間くらいのことは、あんまりよく覚えてない。気配はそのまま入り口の方へ去っていった気もするし、いつの
間にかいなくなってた気もする。ただまあ、朝までに無事原稿を書き上げることができたことだけは間違いな
い。