実録?百物語

10、仏壇

text by 網屋徹

中学生だか高校生だかだった頃の話。鹿児島県の実家でのできごと。ある日、父親から「今度、おじいちゃんの仏壇をこの家に置くことになったから」と告げられた。

祖父は私と同じく鹿児島の出身だが、わけあって若くして故郷を出て、苦労して末に東京で身を立てた。生涯鹿児島に戻ることはなかったそうだ。戻るつもりもなかったらしい。そんなわけで、本来なら長男である父が仏壇を預かるところを、父の弟である東京の叔父の家に仏壇を置いてもらっていたのだ。


それから数日後、うちに仏壇が届いた。お参りを済ませてから、なぜ今さら鹿児島に?という疑問を父にぶつけてみた。すると、こんなふうに言われた。

「叔父さんの夢枕に、おじいさんが立ったんだって。何も言わなかったらしいんだけど、すごく寂しそうな顔をしてたって。それで、叔父さんが言うには、いろいろあったけど、やっぱり鹿児島に帰りたかったんじゃないのかな、ってね。そんなこともあるかなと思ってさ。」


この手の話は頭から否定する父だが、このときだけは神妙な顔をしていたのを覚えている。思えば、京都生まれで東京育ちの父が、鹿児島で職を得たのもなにかの縁だったのかもしれない。

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