実録?百物語
65、肩
text by 網屋徹
怖い話好きだった兄貴から聞いた話。rnrn鹿児島市の南部を走る有料道路がある。その途中の展望台に幽霊が出るらしい、という噂を聞いて、探検に行
くことにした。夏の夜にぴったりのこの催しに、友人数人が集まった。その中には、霊感の持ち主であるAさんも
含まれていた。rnrn兄貴はよく、幽霊が出るという噂のあるスポットを探検していたそうだが、探検に行く
ときは、必ずと言っていいほどこのAさんを伴っていたらしい。彼女は、霊障が起こりそうになると、兄貴の服の
袖を引っ張ったり、「もう帰ろうか」などと言って、それとなく危険を知らせてくれていたそうな。rnrnさ
て。問題の展望台は、有料道路の途中にある駐車場から山の方へ登っていったところにある。展望台までは、周
りに草や木が生い茂る山道を通らなくてはならない。さあ行くかと、その道を展望台へと登っていくと、心なし
か展望台の辺りがおぼろげに光って見えたそうな。この手の探検にはおあつらえ向きのムードだが、なんとなく
いやな雰囲気だったらしい。rnrn歩を進めていくうちに、妙なことに気が付いた。道の左右に生い茂ってい
る草が、大した風もないのにザワザワと揺れ、一行の進む方向に向かってたなびいている。夏だというのに、
木々からは葉っぱがハラハラと落ちてくる。まるで、何かが枝にぶつかって、葉っぱがもぎとられてしまったか
のように。rnrn突然、一行の中のBくんがこんなことを言い出した。rnrn 「おい、早く行こうぜ。
向こうの方に幽霊がいるぞ」rnrn彼はどちらかというと臆病なたちで、普段はそんなことは言わないのだ
が、その時は酒に酔っていたせいか、気が大きくなっていたようだ。走るように先を急ぐBくんに引きずられる形
で、一行は展望台を目指した。rnrn先頭を行くBくんは、「わあ、おもしれえなあ。幽霊がいっぱいいる
ぞ。あそこにもいるし、ほらここにも」などと騒いでいる。兄貴は、まったくあいつ、しょうがねえなあ、あん
なに酔っぱらって…、なんて思ってたそうな。rnrn 「ねえ、Bくんを止めて! あの子『見えてる』
みたいよ。もうこれ以上は行っちゃダメ!」rnrnAさんが叫んだ。Aさんは、それまで一度も見たことがない
ようなマジな顔をしていたらしい。ことの重大さに気づいた兄貴は、前を行くBくんを引き止めるべく走っていっ
た。rnrn 「おい、もう帰るぞ!」rn 「なんでだよ、おもしろそうだから行こうぜ。あっちの方に幽霊
が大勢集まってるんだよ」rnrn取り憑かれたかのように先へ進もうとするBくんをなんとかなだめすかし
て、来た道を戻りはじめた。途中、展望台の方へ駆け出そうとするBくんを、兄貴は何度もひっぱって止めたらし
い。rnrnようやく車まで戻り、家路につくことにした。が、カーブを曲がろうとハンドルをきると、一方の
肩がきりきりと痛む。決まって同じ方向に曲がるときに同じ肩に痛みが走る。rnrn 「なんかさあ、オレ肩
が痛いんだけど...」と兄貴が言うと、Aさんはこんなふうに言ったそうだ。rnrn 「実はあの時、周りを幽
霊の集団に囲まれてたの。展望台の方にはもっとたくさんの幽霊が集まってたし、いつ襲ってこられてもおかし
くないような状況だった。それでね、Bくんをひっぱって止めてくれたとき、1人の幽霊があんたの肩を掴んでた
んだけど、勢いよく引っ張った拍子に、その手が手首から離れて、今もあんたの肩にくっついてんの」rnrn
rnその翌日に、本気でびびった顔の兄貴が、この話を母親に話していたのを覚えているが、どうやってその
「手」をはずしたのかは、ついぞ聞く機会がない。