実録?百物語

51、お化け電話ボックス その2

text by 網屋徹

今から15年くらい
前の話。兄貴に連れられて、前話で取り上げたおばけ電話ボックスを見に行った。大学一年の夏に帰省して、夜
中に仮免許で運転の練習をしているときだった。rnrn問題の電話ボックスは、奥に行くほど急になる、先が
まったく見えないカーブの途中にある。兄貴が事故った地点から町の方へ向かうと道の右側、ちょうどカーブの
真ん中にポツリと立っていた。夜にそこを通ると、自分の車のヘッドライトが電話ボックスのガラス面に反射し
て、あたかも対向車が来ているかのような錯覚に陥る。そのせいかどうか、事故も多いらしい。rnrn車中で
いろんなお化け話を聞かされ、さんざん脅かされた後、問題のカーブが見えてきた。rn「まずは対向車がきて
るように見えるぞ」rnピカッ。ライトの反射が見えた。確かに対向車のように見える。rn「そして、ほら、
あれが例の電話ボックスだ」rnrn急なカーブなので、正直言って運転しながらカーブの外側を見る余裕はあ
まりなかった。通り過ぎながら目の端で、見るともなしに電話ボックスを見た。いた、半透明の男が。rnrn
正確に言うと、見えたような気がした。電話機に向かって受話器を左耳にあてた男が、こっちを振り返っている
ような感じだった。その時の衝撃はちょっと言葉にはできない。あまりに動揺して、運転を誤るところだった。
rnrn疑心暗鬼だと思った。事前に脅かされていたために、想像の中のビジョンが膨らんだのだろうと無理矢
理思いこみ、そのことは兄貴にも言わなかった。その日はそのまま家に帰ったと思う。rnrnrnそれから
しばらくして免許を取った。うれしくて家の車を毎日乗り回し、夜遅くに帰宅するという生活が続いた。そんな
ある日、友達を乗せて問題の電話ボックスを見に行った。あの時に見たあれが何だったのか、気になっていたの
だ。rnrn兄貴に脅かされたように、現場に着くまではいろいろな話をして友達を怖がらせた。兄貴とその友
人のA子さんが経験した話もした。「その電話ボックスは、この先にあるんだ」rnrn前回よりはスピードを
落としてカーブを回る。じっくり見たかったからだ。rnピカッ。ライトが反射した。rnそして電話ボックス
が見えた。rnrn見間違いじゃなかった。たしかに、そこには男がいた。今回もはっきり見たわけではない
が、腰から上の輪郭が目に飛び込んできた。顔の表情など、細かい部分までは確認できなかったのだが、電話
ボックスの中には確かに男が立っていた。rnrn何も言わなかったところをみると、友達には何も見えなかっ
たらしい。動揺を自分の胸のうちにしまい込んで、そいつを家に送って、そのまま家に帰った。rnrn翌日、
もう一度見に行った。今度は昼間に。カーブをゆっくり曲がりながらよくよく見ると、正体がわかった。電話
ボックスの後ろにある木の葉っぱが人の形をしていたのだ。自分が見た不思議なモノの正体に安心し、なんとな
く納得して帰宅した。rnrn夕方、兄貴に一連の話をした。しかし、あることに気づいてぞーっとした。よく
考えれば、昼間の日光に照らされた場合と、夜中の車のヘッドライトに照らされた場合で、木の葉の見え方が同
じであるはずがない。rnrnその翌日、大学に戻った。rnrn一年後。怖いもの見たさにもう一度その場
所を訪れたが、見通しのきかなかったカーブは区画整理によって道幅の広い直線道路に修正されており、件の電
話ボックスは撤去されていた。その後、その場所には一度も行っていない。

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