実録?百物語
44、ギター
text by 網屋徹
大学時代に住んでた部屋で経験した話。rnrn大学1年の4月末のころだったと思う。ある日ふと思い立って、以前から欲しかったレスポールという
エレキギターを買いに出かけた。でっかいハードケースを抱えて最寄りの駅まで戻ってきたが、あまりにでかく
て重いので、駅の近所に住む友人から原付を借りて家まで運びこんだ。ギターを部屋の玄関に置いて、すぐにで
も弾きたい気持ちを抑えて原付を返しに戻り、ようやく部屋に戻ってきた。rnrnさあ弾くぞっとばかりにド
アを開けて部屋に入ると、妙な物音が聞こえる。ユニットバスの中からだ。ユニットのドアを開けると、洗面台
の蛇口から水がジャージャー流れている。さっき戻ったときはそんなことなかったのにな…だいいち、水を
出しっぱなしなら最初に出かけるときに気づくはず…。しかし、一刻も早く新しいギターを弾きたかったの
で、気にしないことにした。rnrnアンプで爆音を出したい気持ちをぐっとこらえて、アンプにヘッドホンを
つないで弾いた。中古だが新しいギターは新鮮な気持ちで弾ける。しばらく悦に入って弾いていると、背後で物
音が聞こえた。rnrn振り返ったがなにもない。またしばらく悦に入って弾いていると、「ガタッ」という大
きな物音が背後から聞こえた。振り返ると、ギターケースが、さっき置いた状態とは逆向きに傾いている。当時
のレスポールのハードケースはギターを一回り大きくしたような形状で、下部のラウンドした部分には留め金が
あり、決してまっすぐには立たなかった。いきおい、斜めに立て掛けておくことになるのだが、それがさっき置
いた状態とはまったく逆の向きに傾いている。なんだか怖くなってその日は弾くのをやめてしまった。rnrn
それからしばらくの間、ヘッドホンをしてギターを弾いていると、物が落ちるような「ドサッ」という音が毎回
聞こえた。それも窓の外で。落ちていく物が見えるわけではない。窓から下を覗いてみても、なにも落ちていな
い。ただ音が聞こえるだけだったが、無性に不気味だったのを覚えている。rnrnギターと一緒に、なにか余
計なものまで買ってしまったか?と本気で悩んだこともあったが、そのギターは今でもお気に入りの一本として手
元に残っている。