実録?百物語

56、海岸で

text by 網屋徹

おそらくあれは幽霊の類だったんだろう
なぁ…ってレベルの話で恐縮だが、晩秋の海岸で幽霊を見たことがある。rnrnたぶん21世紀に入った
年の冬、当時の同僚二人と一緒に、休日に鎌倉あたりをドライブしてた。晩飯を食べて、そろそろ帰ろうとして
たんだけど、一人が「海を見たい」なんて言い出したので、手近な海岸へと向かうことにした。秋の夜の海なん
て、そんなおもしろいもんでもないだろうに。rnrn海岸通りにクルマを停めた。肌寒かったので、クルマに
常備していた防寒具を取り出そうとモタモタしてるうちに、先輩のFO女史は一人でスタスタと波打ち際の方へと
歩いていく。防寒具を着込んで、後輩のAHくんとFOさんの後を追いかけた。rnrn通りから波打ち際まで
は、そう、50mくらいあっただろうか。暗くてあまりよく見えないんだけど、おぼろげに確認できるFOさんの後
ろ姿を見ながら砂浜を踏みしめて行くと、左手の方から海岸に沿って歩いてくる若いカップルとおぼしき人影が
目の端に映った。このまま歩いていくと、そのカップルと我々二人の歩くコースが、波打ち際あたりでちょうど
交差するような感じ。rnrn何にも言わなかったけど、一緒に歩いてたAHくんも、ぶつかるかもなぁ、なん
て考えていたんだって。だけど、波打ち際のちょい手前でFOさんに話しかけられて、受け答えしているうちに波
打ち際まで着いてしまった。rnrnあれ、そう言えばあのカップルはどこへ行ったんだろう…と思って
辺りを見渡してみたが、見通しのいい砂浜には誰の姿も見えない。AHくんに、「さっきカップルいなかったっ
け?」と尋ねると、「いました、いました。でも、どこ行ったんだろう…」と不思議そうな顔をしている。
広い砂浜には、我々三人きりしかいなかったのだ。rnrnrnほんとに恐縮なんだけど、それだけの話。見
間違いかも知れないし、勘違いかもしれない。でも、AHくんと私の間では、冬と言ってもいいくらいの寒い時季
だったのに、そのカップルは白いTシャツにジーンズという軽装だった、という意見で一致してる。

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