実録?百物語
31、金縛り
text by 網屋徹
怖い話好きだった兄貴から聞いた話。友人と2人で、先輩のアパートに遊びに行ったんだと。話が盛り上がり、気づいたら明け方の3時だか4時ころになっていた。
そろそろ寝ようか、ということになったが、その先輩の部屋は4畳半くらいの広さしかなく、1人しか寝ることができない。部屋に先輩1人が残り、兄貴と友人は近くに駐めておいた車の中で寝ることにしたらしい。
シートを倒して、自分は運転席に、友人は助手席に座って寝ることにした。なかなか寝つけず、ようやくウトウトしかけたと思ったら、急に金縛りが襲ってきた。
体を動かそうとしてもかなわず、目を開けることもできずに苦しんでいると、目を閉じた真っ暗やみの世界に、老婆の顔が見えてきた。最初は小さな点のように見えていたその顔は、徐々に大きくなりながら、目がつり上がり、口が裂け、鬼ババのような顔に変わっていく。そして、目を閉じた暗闇の世界を覆ってしまうほどに大きくなっていく。
なんとかして体を動かさなければと焦る中、金縛りに遭ったとき、足の小指など、力の入りにくいところに力を込めるようにすると解ける、という話を急に思い出したらしい。助かりたい一心で、左足の小指に力を込めた。
集中した甲斐あってか、ふっと体が自由になった。助かった…と安堵し、ふと隣りを見ると、友人がうなされている。もしや、と思って友人を揺り起こすと、「よく起こしてくれた。実は今、金縛りで苦しんでたんだ」と言われた。話を聞くと、兄貴と同じように、鬼ババの顔が頭の中に広がってきていたらしい。
2人が同時に同じような金縛りに遭うなど、そうある話ではない。まさかとは思ったが、1人で寝ている先輩が気になり、部屋まで戻ってみると、やはり先輩もうなされている。急いで揺り起こすと、よく起こしてくれた、と言われたらしい。
「実は今、金縛りに遭ってたんだ。鬼ババの顔が頭の中に広がってきてさ…」