実録?百物語
14、お墓で
text by オオヤギみき(TOKYO GOONIEZ)
オレが5才の頃?だったかな? 記憶がさだかじゃない、まだホントに小さい頃の話。ウチのお母さんのお母さん(つまりおばあちゃん)の一周忌っつーの? なんか、親戚勢揃いでお寺いってボウズがお経あげて、そのあと飲んだり食ったりするヤツあるじゃん? アレのときのことだ。
ボウズのお経は小さいオレにはタイクツで(今でもタイクツだろうけど)、早くお寺を出たかった。長い長いお経が終わって、お母さんや親戚の伯母さんたちは、お寺の片付けをしてて、その間もタイクツだったオレは、お父さんや、伯父さんたち、男連中でお墓の掃除に行くことになった。
お墓を掃除して、お花を供えて、線香あげて、一通り終わったら、伯父さんたち男連中は、「じゃあ一服しますか」みたいな話になり、休憩所へ向かった。
休憩所と言っても、石でできた丸いテーブルを囲むように石のイスが並び、その上を、何本かの柱で屋根を支えてるだけのカンタンなもの。ぜんぶ石でできてるから、一見ストーンヘンジのようにも見える。
その丸いテーブルをグルっと囲むようにオオヤギ家の親戚一同が座り、タバコに火をつけ、伯父さんたちの雑談が始まった。その中に、一緒にオレも座った。お母さんといようが、お父さんといようが、5才にも満たない子供がこういう行事に参加するのはホントにタイクツなもんだ。オッチャンたちが何の話をしてたかまでは覚えてないケド、話題に入れないオレは、はじから順に親戚一同の顔を眺めていた。
唐子町のオジさん、ウチのお父さん、浜町のオジさん、東町のオジさん、........アレッ?
グルっとテーブルを囲んでいるウチの親戚連中の間にはさまれて、女の人が座ってる。
親戚の誰かかな?とオレが思わなかったのはその人の風貌からだった。だって、髪の毛がボッサボサで、顔や手や腕は真っ黒にヨゴれている。そして、なんと着ているのが「着物」なのだ。ダークグリーンの薄汚れた着物で、ボロボロ。さらに、よく見ると赤ちゃんを抱いている。んで、片方オッパイを出して、その赤ちゃんにオッパイをあげているのだ。フツー、赤ちゃんってなんか布とかにくるまってるじゃん? その赤ちゃんは服も着てなけりゃ、布も巻いてない。全裸。
そしてその女の人は怒りに満ちたような表情で、伯父さんたちの顔をジロジロと睨んでいる。
オレは不思議に思った。
「この人がココで赤ちゃんにオッパイあげてるなら、他の休憩所に行けばイイのに、なんでウチの男連中はワザワザココの休憩所を選んだんだろう?」
言い忘れたが、石でできたこのストーンヘンジのような休憩所は、5m間隔くらいでお墓の周りにズラっと5〜6カ所あるのだ。確かに、子供の頃のオレが思うように、片方オッパイを出してるような女の人がいる休憩所をワザワザ選ばなくとも、すぐ5m向こうに誰も座ってないガラあきの休憩所があるのだ。
フツーなら、この女の人を確認した時点で、確実に誰もいない方を選ぶハズ。それに、この女の人は、伯父さんたちにはさまれて座っている。不自然スギる。しかも、伯父さんたちは、この人のことをまったく無視して話し込んでいる。
このときのことを、フと思い出したのは中学生くらいになってから。このとき感じた、数々の不審な点を照らし合わせて、気付いた。きっと、あの人はまだ小さなオレにしか見えてなかったんだ。
あの女の人が何者だったのかまでは、いまだに分からない。高校生になってから、よくその休憩所にみんなでタバコを吸いにいったケド、オレにはその休憩所だけは不気味に見えて、絶対に座らなかった。