実録?百物語
15、深夜の編集部 その1
text by 網屋徹
以前働いていた、某雑誌の編集部での話。その編集部は、夜中になると騒々しくなる。 1つのフロアに4つの編集部が同居しており、40人からの人間が仕事をしているので、昼間もバタバタしているのだが、深夜12時ごろ、編集部員たちが終電に間に合うようにばたばたと帰ってしまい、時間に負われた仕事を抱えた徹夜組だけが残されると、別の喧騒が始まるのだ。12時を境に、昼間の面子と夜の面子が入れ替わるような感覚だったのを覚えている。
ある人によると、その編集部、入り口から対角線上の隅にかけて、霊の通り道が存在していたらしい。思えば、その編集部に在籍した約3年間、その線上にある自席で仕事をしていた。
誰もいない机や会議室から物音が聞こえてきたり、ふと人の気配がするなんてことはしょっちゅうだ。深夜の残業を経験した人、特に1人で居残って残業をした経験のある人は、そのほとんどがなにかしら奇妙な体験をしている。
ある人は、自分の机に向かって物音が近づいてくるのを聞いたそうな。ある人は、自分の後ろにある、誰もいないはずの席に、一晩中人の気配を感じていたそうな。
幸いなことに、害らしい害もないし、徹夜の残業をするのは非常にテンパっているときなので、ささいな物音や気配を気にしているヒマはなかったのだが。